ー Jリーグ元年から日本サッカー界をけん引してきたエースと、2010年から日本代表をリードしてきたキャプテン。彼らが発する言葉には、ロシア・ワールドカップで成功を収めるためのヒントが隠されている。
6度目のW杯に挑む日本は、大会直前の監督交代によって、実質1カ月でチーム作りを進めなければならなくなった。準備期間が不十分であることは誰の目にも明らか。短期間で体制を整えるには豊富な経験値やリーダーシップが求められる。
51歳の三浦知良と34歳の長谷部誠−−。ベテランの域に達した2人が考えるチーム作りとは何か。様々な経験を積んでなお新たな挑戦を続ける二人が、日本サッカー界の未来を語った。
インタビュー・文=高尾太恵子 Interview and text by Taeko Takao
写真=鷹羽康博 Photo by Yasuhiro Takaba
【前編】
■長谷部が考えるキャプテンの役割、カズが考えるプロのこだわり
ー 若手がチームに勢いをもたらし、中堅、ベテラン選手を刺激する。経験がある選手は若手がプレーしやすい環境を作る。長谷部は日本代表にそんな好循環を生み出したいと考えている。
若手に求めるのは伸び伸びとしたプレーだ。南アフリカ大会のピッチに立った時、長谷部は経験のある選手に引っ張られ、あまりプレッシャーを感じることなく自由にプレーができたと振り返る。
長谷部 「若手にはサッカーを楽しむくらいの気持ちでやってほしいです」
ー この意見にカズも全面的に賛同する。「若さこそ最大の武器」とはよく言ったもので、若手は大舞台でも怖いもの知らずでぶつかることができる。そして、彼らのプレーや言動をすべて受け止めるのが中堅、ベテラン選手の役割だ。
カズ 「横浜FCの一番若い選手は18歳で、僕の子どもとあまり変わらない。それくらいの年齢の子は、家でお父さんとあまり話さないじゃないですか(笑)。だから、自分から歩み寄っていくことが大事。僕がずっと自分の位置にいたら、みんなが近づきにくいでしょ。10代なら10代、20代なら20代の目線で自分から話をすることが、一緒にやっていく上で大事かなと」
長谷部 「経験のある選手は、今大会が初めてだという選手を引っ張ってほしい。自分たちが伸び伸びとやれたように、今度は僕らがそういう環境を作りたい」
カズ 「W杯予選でなくても、代表キャップ数が多い選手はそれだけの経験をしているはず。チーム内での振る舞いや、練習への姿勢が自然とお手本になると思う。それだけの実績と人間性があるからこそメンバーに残っているわけで。意識しなくても自然とあふれ出てくるものだと思いますよ。特にキャプテンをやっている長谷部には人間力と実力、経験がある」
ー それぞれの役割を理解した若手、中堅、ベテランを融合させるのが、キャプテンの役目でもある。だから長谷部はコミュニケーションを大事にする。何が正しくて、何が間違っているのか。簡単に答えを出せないこともあるが、後になって「もっとコミュニケーションを取っておけば良かった」と後悔はしたくない。
長谷部 「それぞれの立場に関係なく、自分が思っていることを言う。そして相手が思っていることを聞く。それが大事だと思う」
ー コミュニケーションの取り方にも気を配っている。相手によって話し方を変えたり、一対一を選んだり、グループで会話したり。長谷部はその時に合った手段を選ぶようにしている。一方で、カズは「キャプテンとして」のコミュニケーションを意識したことがない。Jリーグの開幕を飾る横浜マリノス戦でキャプテンマークを巻いたが、「コイントスの係」くらいにしか捉えていかなったという。
カズ 「僕が考える『プロ』とは、どうしても個人なんです。チームスポーツとはいえ、プロの世界は個人だと思っている。だから、自分がキャプテンをやっている時に『僕がチームを引っ張る』、『僕が間に入る』なんて考えたことがないですね」
ー キャプテンであろうとなかろうと、カズは誰よりも早く練習場に来て、誰よりも気持ちを入れてプレーする。その姿に刺激を受ける選手がいてくれたらいい。それだけだ。
その「個人」にフォーカスした時、長谷部はロシアW杯で何を示したいのだろうか。年齢を重ね、経験を積んだ長谷部は史上最高の状態でロシア大会に臨めると言い切った。
長谷部 「過去2大会は自分のプレーに納得していないので、ここで自分が持っているものを出し切りたい。チームの結果や内容が大前提ではありますけど、個人としてもやり切ったと思えるような大会にしたい」
カズ 「長谷部は若い選手が失敗を恐れず、ピッチで躍動できるような環境を作ってあげないといけない。それだけの経験があるんだから。彼が躍動して、みんなを鼓舞している姿が見たい。その中で、みんなが熱く燃えるところが見たいです」
【後編】
■日本サッカーの未来のためにできること
ー 今年4月、長谷部はフランクフルトとの契約を2019年6月まで延長した。つまり、自身3度目のW杯を終えた後も、サッカー選手としての人生は続いていく。アスリートの多くは目標を掲げ、それを達成するために厳しいトレーニングに励む。長谷部も若かりし頃は目標を設定して、努力することが当然だと思っていた。しかし、いつしか「先のことを考えすぎても仕方がない」と思うようになった。
長谷部 「今やれることを頑張ったら、新しい自分が見られるんじゃないか。今はそういう感覚でやっています。現在を頑張れなければ、未来は開けない。描いた未来に自分を寄せていくのではなくて、今をつかんでいった先に未来があるというイメージです」
ー 新しい自分に出会えた時、人はワクワクする。年齢は関係ない。長谷部は34歳の自分に期待を寄せる。
長谷部 「この2年間でまた経験を積んで、最高の状態になっている。若い頃は30歳を過ぎたら落ちると思っていたんですけど、今はそういう感覚がない。どこまで行けるんだろうとワクワクしています」
ー プロ生活33年目を迎えたカズも、まるでサッカー少年のような笑顔を浮かべて同調する。
カズ 「できなくなったプレーがあると感じる反面、『まだこんなプレーができるんだ』という発見もある。それは常に楽しみ」
ー ベテランの域においてもなお成長し続ける二人が危機感を抱くのは、日本代表の現状だ。世界のサッカーはものすごい速さで進化している。ドイツでプレーし、そのことを肌で感じている長谷部は、ベテラン選手を追い抜く選手が出てこないことを嘆く。
長谷部 「2010年、2014年とW杯に出場して、もちろん進歩している部分もある。でも正直、停滞していると感じます。世界との差は縮まっているようで、広がっているんじゃないかと。日本サッカーに関わる人たちがその事実を真摯に受け止めて、変わろうと思えるかどうか」
カズ 「明日どうなるか分からない世界で、全員が危機感を持つことは大事。常に持っていないといけない」
長谷部 「ドイツにいると、日本と世界の差を感じることがある。それを発言すると批判の対象にもなるけど、それは日本サッカー界を思ってのことであって、言い続けないといけないと思っています。僕なりにできることを真剣に考えていますよ」
ー 強豪国と比べれば、日本サッカーの歴史は浅いが、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ前へと歩みを進めている。失敗もあるだろう。それでも10年、20年、50年、100年後に日本が強豪と呼ばれる国になるようチャレンジし続けなければならない。では、二人が考える日本サッカー界の未来、そしてチャレンジすべきこととは何か。
長谷部 「これから先、W杯を経験した選手が指導者になり、日本サッカー界を引っ張っていく立場になると思う。特に海外で経験を積んだ選手は、そういったポジションに就くべきだと思うので、そういう意味では明るい未来が待っている。僕は日本サッカー界から多くのものをもらいました。だから、自分の経験を還元したい。みんなで力を合わせてやっていけば、未来には大きな何かが待っている。そう信じています」
カズ 「まずはJリーグのレベルを上げること。優秀な外国人選手が入ってくるような環境にできれば、子どもたち、国内でプレーしている選手たちの刺激になる。みんなが高いレベルに引き上げられるようなリーグにしていくことが、日本代表の強化にもつながる。海外でやっている選手は、日本でやっている選手よりもメンタルがタフだし、そういう選手を少しでも多く、Jリーグから輩出していくことが大切だね。
ブラジルやドイツですら、次のW杯出場は保証されていない。日本代表もアジアで勝ち抜けなくなることがあるかもしれないし、低迷する時期があるかもしれない。そういう時に、みんながどれだけサッカー界を支えられるか。そこで離れていくようであれば、まだ文化にはなれない。悪い時にみんながどれだけ日本のサッカーを必要としてくれるか。そのためにJリーグをもっと充実させていかないといけない」
<長谷部選手からカズ選手に質問!>
長谷部 いつまでサッカーを続けるんですか?
カズ プレーできる環境がある限り、ずっと続けたいね。努力も続けたいし、グアムでの合宿も続けたい。やっていることを変えるつもりはない。体力的にできなくなるのか、メンタル的にできなくなるのか、ケガでできなくなるのか。多分、僕の場合はメンタル的にできなくなることはないと思う。辞めるとしたら、ケガ、もしくは本当に動けなくなって、自分の満足のいくトレーニングができなくなった時かな。そうならない限り、続けていこうと思います。
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