NIKE FOOTBALL ACADEMY

INTERVIEW

@三重高等学校 2025.3.31 Mon.

辻 秀一
スポーツドクター 株式会社エミネクロス代表

サッカーショップKAMOがNIKEと共に立ち上げた
『Nike FC presented by Soccer Shop KAMO』の活動の
第12回として訪れた三重県 三重高等学校サッカー部。

“NIKE FOOTBALL ACADEMY”と題した今回の企画について、
オフピッチの講師にお招きした
辻氏にインタビューを行いました。

  • 個人のあるべき姿を意識

    ーオフピッチ講義を終えて率直な感想を教えてください。

    辻: 選手達が今日どんなモチベーションで参加したのかという疑問がありました。
    厳しい言葉ですが、誰もノートをとっていない講義は経験なく、そもそも選手達が参加するモチベーションとやる気がないと感じてしまいました。

    ー講義で特に意識された事はありますか?

    辻: 最終的に良いチームワークやチームが機能してエクセレントチームになることを念頭に置いたうえで、個人のあり方として自律性や主体性、自分のパフォーマンスに責任を持つことの話をしましたので、最終的にこのチームはどうあるべきなのかを考えるために個人のあるべき姿を意識しながら話をしました。

  • チームワークをどうやって作るのかに真摯に向き合ってはいない

    ーチームワークの重要性を教えてください。

    辻: サッカーだけでなくスポーツ、人生全てで1人では何事も出来ないです。
    チームで何かをやることはピッチ上にいる11人だけではなくて、控え選手やマネージャー、スタッフを含めた人の集合体であり、結局チームマネージメントを良くしていくことで強いチームになるので避けては通れないですが、チームワークはみんな言葉にするわりに、意外とチームワークをどうやって作るのかに真摯に向き合ってはいないので、私はそこに焦点を当てたいなと思っています。

    ーチームワークの講義で一番大切にしていることを教えてください。

    辻:チームワークは触れない、見えない、それこそ売っていないので、共通の概念みたいなものをみんなが持って共有出来るかが重要です。
    今回の講義で話した共通の概念の機嫌よく、質高くなどの目に見えないものは、言語としてみんなで共有していく必要があるので、機嫌よくやることやライフスキル、信頼を言語としてみんなの軸になっていけば良いなと思いますが、ただ知っただけだと忘れていくので、これをいかに柱に出来るかは、これからのみんなの取り組みにかかっていると思います。

  • 指示と支援のバランスを常に意識して良くしていくことが大事

    ー指導者がチームワークを成長させるうえで、必要な素質や意識はありますか?

    辻: 素質は全ての人にあると思っていますが、練習しなければ、どんな素質も活かすことは難しいと思っています。
    全てのパフォーマンスは内容と質で出来ているので、人のパフォーマンスに責任を持っている指導者やコーチ、リーダーや親は内容と質の両方にきちんとアプローチする必要があります。
    やらなくてはいけないことに対するアプローチは指示と言いますが、指示は明確に具体的に時には厳しくする必要があります。
    一方で心に対しての配慮感が弱くなってしまうので、心に対しての配慮、人間の仕組みを理解して機嫌よくやらないと、どんな人もパフォーマンスが上がらないことを理解して心に対する配慮をしていけることを支援と言います。
    良いいリーダーやコーチ、親は指示と支援のバランスが良いです。
    指示しかなく支援がなくなるとハラスメント傾向になり、指示がなく支援しかないとカウンセラーになってしまいチームは強くならないので、とにかく指示と支援のバランスを常に意識して良くしていくことが大事だと思います。

  • 本当の共有レベルを上げていくには、個人の主体性が大事

    ー講義の中で共有が難しい部分と感じました。

    辻:立場の高い人が無理やり強要すること、例えばヘッドロックして目標は日本一だと相手が返事するまで続ける感じが強要です。
    それではしんどく、嫌になってしまい、ただ壁に目標を貼っているだけでは強要も共有もない状態です。
    自分の意思でこのチームに入っている以上は、共有は自分からのベクトルです。
    チームが大事にしているものがご機嫌であれば、自ら共有しようとする、理解しようとする、自分のものにしようとする、視野を広げる、視座を高めていこうとすることが共有ですが、そのためには主体的に生きる習慣が必要です。
    この部分は根深いと感じていて、日本の場合は言われたことに従う学校教育多いと思いますので、自ら共有することよりも強要されて陰口を叩くという方に学校教育が作ってしまっている気がします。
    難しいですが、本当の共有レベルを上げていくには、個人の主体性が大事です。

  • 個人と全体と関係、例外なくこの3つでチームは構成されている

    ー「チームの大原則」を執筆したきっかけを教えてください。

    辻:意外にチームワークの本が少ないことが、1つ背景にあります。
    チームワークについての本を1通り読むと、ほとんどはリーダーが読むチームワークや管理者が読むべきチーム作りなどであり、上に立つ人がチームを作るという概念が蔓延っているのではないかと危機感を持ちましたが、まずは責任を果たす個人がいない限りチームにはならないと思います。
    このメッセージを誰かが強烈に発しているかというと誰も発していないので、まずは自分だということを全員が読む本を作りたいとかねがね思っていた中で出版社とご縁があり、まさにそれを伝えたいですと言ってくださったので、思い切って書くことにしました。

    ーチームワークを言語化するにあたって特に意識されたことはありますか?

    辻:チームがワークしていることは何かというと、有機的にそこにいる様々な個人が、それぞれ自分の責任を果たしながら、1×1がどんどんどん大きくなっていく感じがチームワークです。
    チームワークを題材にしようとした際に、まずチームは何で構成されているのかということを明確に理解する必要がありました。
    個人と全体と関係、例外なくこの3つでチームは構成されています。
    これがワークするには、この3つのテーマがあることが分かれば、この3つに対してどう働きかけるかということになるので、全体性だと共有がある、関係だと最後は信頼がすごく大事だし、そのためにコミュニケーションが関係値を生んでいますが、すべての始まりは個人の自律性と主体性ですし、この3つが構成されていることが分かれば良いと思います。
    今度は個人をさらに深掘っていった時にヒューマンリテラシー(人の仕組み)を理解して高めていかないとチームワークは始まらないし、個人の自立は始まらないので、この教育が圧倒的に足りていないと思っています。

  • 掛け算型のチームの作り方を学習していかないといけない

    ー日本人はチームワークに優れているとよく聞きます。

    辻:団体戦に日本は結構強いですが、私はこれを団体モードだと思っています。
    団体とチームは何が違うのかを考えると、団体はただの足し算であり、日本人は真面目なので、言われたことをきっちり果たしていく足し算的なことはすごく得意ですが、チームは関係値がある掛け算なので、自分の役割をただこなしているだけではよろしくないわけです。
    それが何につながっているのかまでしっかりと理解し、主体的にさらに共有レベルを上げていくことを262の法則※1の中で行っていくことが出来れば、チーム作りは出来るはずなのですが、日本人は言われたことに従うこと、自己滅私が大事だからとなっているので団体には向いています。
    世界で活躍していくには、真の意味での掛け算型のチームの作り方を学習していかないといけないと思います。
    ※1 262の法則:組織内の人材の比率が「意欲的に働く2割」「平均的な6割」「意欲の低い2割」にわかれる現象。

    ーユース年代の心の持ち方や考え方に感じることはありますか?

    辻:簡単に逃げて楽になっていることは確かで、昭和の我々はとにかく気合い根性だと強要するやり方と二極化している感じはあると思います。
    講義終了後は、みんな次のことしか考えていなく忘れていくので、一回で終わらせずに継続的に取り組みことが重要です。

    市船サッカー部の最初の講義では、選手も真摯に聞いておらず、パフォーマンスを追求したいのであれば、パフォーマンスを工学的に理解して人間としてのパフォーマンスをあげる必要性を伝えて、私は人の専門家であり人の仕組みを教えるから人でなければ帰ってくれと言っていました。
    半年経った4回目ぐらいに、話を聞くことでパフォーマンスが上がり、サッカー人生に得だと気づく選手が少しずつ増えていきました。
    そうすると結果も出るようになり、ピッチでも今やろう、機嫌よくやろうなど、みんなが声をかけ合うようになってくるので、変わるまでに半年後ぐらいはかかります。

  • パフォーマンスの内容と質に責任を持つ

    ー最後に、ACADEMYを通してどんな次世代のプレーヤーたちが育っていってほしいでしょうか?

    辻:私は成功より成熟だと思っています。
    主体的に自分で決めて行動するのだから、パフォーマンスの内容と質に責任を持つ考え方を持ってサッカーに真摯に向き合っていけば、自分の人生に役に立っていくので、自分事に出来るようになってほしいです。
    きっかけはサッカーでうまくなりたいや勝ちたい、試合に出たいという純粋な気持ちで良いと思いますが、最終的にはライフスキルのような思考を育んだ選手達が日本にもっと増えてほしいなと心底思っています。

OTHER INTERVIEW
 

オフピッチとオンピッチの講義の様子をレポートでお届けします。

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